バーチャルYouTuber にじさんじ卯月コウ 鈴木勝 出雲霞
初投稿です。何か不備がありましたらお知らせください。コウのメタ認知してる姿勢すき。うづコウランドに永住したい。
朝早くに起こされて、眠い目をこすりながら冷蔵庫から納豆を取り出し朝食とする。軽く制汗シートで体を拭いた後、つよつよ金持ち学校のハイブランド制服に袖を通す。金持ち学校だから防犯上名札は付けないことになっていて、それが俺のメンタルには結構優しかった。あんまり自分の名前が好きじゃない。すごく嫌とかではないんだけど最近はどこか違和感があって、答案用紙の氏名欄に「卯月輝」って書くたび間違ってるような気分になる。入学当初はかなり目立っていたけど今ではそこまで気に留められない明るい金髪には、指導されない程度に整髪料を付けている。いってきます、とリビングに向かって言えば、もう会社へ行ってしまった父の代わりに母がいってらっしゃい、と返してくれた。要領が特別良いわけじゃないし、むしろシングルタスク気味ではあるから真面目にしてたほうがいいと思うんだけど、授業中は暇をもてあそんでいる。教科書に書いてあることを教師が解説する時間を授業と呼ぶのなら、分かりにくい解説をする教師の話は無理して聞く必要はないと思う。オリジナルの美少女ゲームシナリオを妄想しているだけであっという間に過ぎる時間が俺の青春の大半を占めているのなら、この先の人生のどれだけをまっとうに楽しく過ごせるのだろう。部活はテニス部だけど、ガチ勢ばっかの部でもないから俺一人真面目にやらなくても流してくれている、気がする。それでもジャージに着替えた上で日光に当たって数時間運動をするのは疲れるもので、家に帰ると母の作ってくれた夕飯が世界一美味しく感じられる。積んでいたゲームを消化して、シャワーを浴びて、就寝。最初に戻る。
この人生は無限ループだ。毎日に多少の変化やイベントはあれど、例えば友達と喧嘩しただとか、飼い猫が増えただとか、父の機嫌がすごく悪い時期があるだとか、そういうのがあっても所詮俺の毎日は中学生卯月輝の日常パートを繰り返すだけだ。これから先、どんなに成長したってこのループから抜け出すことはできない。大人たちはこんなの何十年も続けておかしくならないんだろうか。いつか終わりが来るその日まで、ただじっと耐えていなければいけないんだろうか。これって俺が御曹司という恵まれた立場だからつまらなさを感じてるのかもしれない。この環境を恨むつもりはないけれど、そして恵まれない環境に生まれた人の苦労は無視したくないけれど、でも、世の中ってどうしても不平等だと感じてしまう。
「御曹司、ぼーっとしてどうした?」
「先輩達待ってるって」
「あ、すまん」
でも。今の俺は卯月コウだ。
無限ループの毎日にリセットボタンを押したその瞬間、卯月コウは生まれた。失ったものは、安定した環境。しかし、得たものはあまりに多い。多様な個性を持った仲間との交友関係が得られました……なんて意識高い系大学生が言うみたいな綺麗事は、俺にとって父を言いくるめる際の御託に過ぎない。卯月コウになった俺が手にしたものは、世界を作る権利、そして壊す権利だ。こんなこと言うと典型的な中二病みたいだけど。卯月コウをとりまく環境をどう形成していくのかを決めるのは自分で、卯月コウの世界を滅茶苦茶に破壊するかどうかだって自分の采配次第だ。
おなえどしの勝と霞が俺に声をかけた後同じタイミングで顔を見合わせて、首を傾け、瞬きをした。シンクロする動きが小動物みたいに思える。
「あー! 何笑ってんだよ御曹司!」
怒る勝を見て霞がくすくす笑う。
「ライバーみんなで誕生日お祝いしようって、勝が言い始めたんだよね」
「そうだったの、サンキューな」
「だって、みんなでお祝いしたほうが楽しいだろー?」
こういうアニメのシーンって前の俺なら、日常系アニメとかなんとか言って笑ってたところだけど当事者となってみると普通に楽しいし、ずっとこのままでいたいと思ってしまうほどには幸せだった。
そういえば、今日俺は誕生日を祝われにスタジオへ呼ばれてるんだけど、年齢は十三歳のままだという。なかなか終わらない日常系アニメみたいな世界線だ。
「あっそうだ、勝、霞。やりたいことあるんだけどいいか?」
「何?」
「ここからいちからのスタジオまであと二百メートルくらいだけどさ、百五十メートルくらい走った後で三人いっせいにジャンプして、日常系アニメのオープニングごっこしようぜ」
「はあ?」
「何言ってんの、待たせてるんだから早く行くよ」
勝と霞の返事は現実的だった。そう、ここは日常系アニメの世界じゃない。バーチャルだけど、フィクションじゃない。
「お前ら、いっぞ!」
俺は一人全力で走り、思いっきりジャンプした。中学生の脚力では、アニメみたいな滞空時間を得られなくてすぐ地面に足が付いた。後ろから勝と霞のため息が聞こえた。こんなに楽しい瞬間は、生まれて初めてだった。
終