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suidosuiの小説まとめです (NSFWはここにありません)

風紀委員が通ります!

風紀委員の美兎と剣持が学校内の様々なお悩みを解決していくお話です。みとうや学パロ?です。
バーチャルYouTuber にじさんじ
剣持刀也 月ノ美兎


「ねえ、何なんですか。いきなり呼びつけて」
 職員室と放送室がある廊下にある小さな空き部屋。本来倉庫として使われてもおかしくない規模をしているが、そこには高校生が二人。机を向かい合わせにしてにらめっこでもしているかのようにお互いの顔を見つめあっている。
「わたくし達、風紀委員ですよね? そろそろ活動しようかなーと思って」
 月ノ美兎はそう言ってカバンの中を漁り始めた。剣持刀也は頬杖をついてため息をつく。
「あーまったく。僕は剣道部で忙しいんですよ」
 面倒くさい、と言わんばかりに剣持は目を閉じた。すると美兎はイチゴ味のサクサク噛めるタイプの飴を机に散らした。剣持は「どうも」とだけ言って一粒もらった。
「わたくしだって映画研究会で忙しい合間を縫ってこうして定例会に出てるんですよ」
「んー。委員会って言っても正直面倒じゃないですか。やるなら……とっとと終わらせましょう」
 飴を噛み砕く。早く家に帰って漫画でも読みたい。
「同感です。わたくしの心情を代弁するかのごとく、外は雨模様です」
 小さな空き教室の小さな窓から外をのぞく。あ、本当だ。雨が降り始めている。バス混むだろうな。
「……あった。これです、今日のお仕事」
 言って美兎はノートの切れ端のようなものを四枚、机に広げた。
「演劇部、自然科学部、美術部、放送部……」
 紙切れにはひとことメッセージと部活動名が書いてある。
 風紀委員の仕事は、生徒たちの治安を守ることだ。生徒会との違いは、生徒会が政治家だとすれば風紀委員は公安のようなものと例えることで説明できる。
 職員室と放送室の間の廊下に机があって、そこに段ボールでつくった目安箱を設置してある。投函される内容は人間関係が上手く行かないだとか、部活がうまくいかなくて困っているだとか。それを高校生にできる範囲で解決する手助けをするというのが風紀委員の役目だ。
「雨だから文化部ばっかでちょうどいいですねえ」
「確かに。ほんと久々ですね、こうして風紀委員として活動するのも」
「必要とされたからわたくし達は呼ばれたんですよ。さっさと今日中に片付けちゃいましょう」
 剣持はロッカーの中から赤い腕章を二つ取り出した。黒い文字で風紀委員と書いてある。昔ながらの書体だ。安全ピンで右腕に留める。この格好は学校内でも結構目立つ。剣持はすこし気恥ずかしいが、美兎はそれほどでもないようだ。
 必要最低限の荷物だけ持って、廊下に出る。授業で分からなかったところを職員室に来て質問する生徒でいっぱいだ。美兎はまったく真面目なことだと思った。
「さあ、どいて下さい」
「風紀委員が通ります!」
 まず訪れたのは演劇部の部室。別棟の二階、畳の部屋だ。目安箱の紙には「部員が欲しい」とだけ書かれていた。
「失礼しまーす。わたくし、風紀委員の月ノ美兎です」
「失礼します。同じく風紀委員の剣持刀也です」
 障子を開けると、隅っこの方で人が動くのが見えた。
「あ、風紀委員さんですか。本当に来てくれたんですね。演劇部のAです。来てくれてありがとうございます。散らかっててすみません……」
「いえいえお構いなく。今部活に来てるのはAさんだけですか?」
 美兎が聞いた。
「見苦しいことに、わたしだけですね」
 座布団を勧められたので二人並んで座る。軽くお菓子が出される。チョコレートの裏にビスケットがついてるタイプのあれだ。剣持は遠慮なくいただいた。
「さっそく本題に入るんですが、部員を増やしたいんですね?」
 委員長の美兎が話を進める。
「そうなんです。わたし含めて、部員は三人だけで。演劇の大会に出られる最低人数すらいないので、時期になるといつも放送部から機材詳しい人とか声の演技が上手い人とかを助っ人として呼んでます」
「演劇部にも大会あるんですね」
 剣持が言った。
「ありますよ! 文化部は大会ないって運動部から思われがちだけど、あるところは結構あります。あと、今いる部員が全員三年生なんです。来年になったら、このままじゃ廃部です」
「それは大変ですねえ」
 部員が集まらないのはきっと負の連鎖に陥っているからだろう。部員が少なければ、活動の幅は狭まる。そうすると、表に出る機会が減るから一般生徒にとってみれば演劇部への興味を失ってしまう。ますます人は来なくなる。
「今ってどんな活動されてるんですか?」
 剣持が聞いた。
「年に二回ある大会に向けての練習と、文化祭でのちょっとした出し物の練習くらいですかね」
 うん。弱い。これでは興味を持って途中入部してくる人なんて皆無のままだ。でも剣持は迷った。これをストレートに伝えていいものか?
 美兎の顔を伺うと、たぶん剣持と同じ顔をして悩んでいた。視線を合わせると、お互いの考えていることがまるでテレパシーのように伝わっていった。
「Aさん、少し厳しいことを言いますが、いいでしょうか。まず、このままの活動内容では新規に興味を持つ人は現れにくいと思います。そこで僕……からでいいですかね、考えたことがあるんですけど」
「はい! なんですか」
「僕の考えでは、放送部の今手伝ってもらってる人たちを演劇部と掛け持ちしてもらうというのはどうでしょうか。掛け持ちとはいっても内容は大会の手伝いをするだけで、負担は今と変わりません……って感じで」
「うーんと……放送部さんみんな忙しいみたいなんですよね。だからそれはちょっと」
 うつむくA。その眼差しにはどこか諦めも混じっているように見える。
「はえー、忙しいって言われちゃうんだ」
「いろいろあるんじゃないですか、放送部も。それこそ大会とか。わたくしがねえ、考えたのは、ショートムービーみたいなのを作って学内で上映するの。スクリーン使える特別教室貸切ってさあ。昼休みとかなら許可してくれるでしょう。映像編集なら今スマホ一台で結構簡単にできちゃうし、台本をトンチキなものにすればとりあえず客寄せにはなるんじゃないかなと」
「客寄せ……ですか?」
 首をかしげるAに剣持が補足した。
「この人映画研究部なんですよ。友達集めてヤバい映像ばっか撮ってるんです。ま、奇抜なものでなくとも、何かしらコマーシャルを作るのは大変効果的だと僕も思います。いきなり上映するってだけでも相当『なんだ?』ってなるじゃないですか。うん。いいと思いますよ」
「……映画研究部? そんなのあったかな。と、ともかく、良さそうなのでやってみようかなって思いました。ありがとうございます」
 その後お菓子を食べながら緩く雑談して、なごやかな雰囲気のまま演劇部の部室を出た。次は少し離れたところにある第一化学室を目指す。雨はしとしとからざあざあになっていた。こっちの棟に来る時に傘を持ってきていなかったから二人とも結構濡れた。
「シャワーみてえだ! ハンカチがぞうきん」
 百貨店で買ったようなタオルハンカチを絞る剣持。誰かからのプレゼントだろうか、と美兎は思った。
「ハンカチ持ってるんですね、ふーん」
「持ってないんですか」
「今日は忘れてきたの、教室のカバンに入れたまんま」
「へえー。寒かったら言って下さいね。映画研究部、調子はどうですか」
「ぼちぼちやってますよ、ぼちぼちね。剣持さんも剣道最近どうですか。忙しくないの」
「忙しい……けどまあ、なんとかなってます。この突発的な委員会活動が無ければなー」
「こら! 風紀委員は何よりも優先順位上ですからね! まあなんだかんだいって剣持さん真面目でしょう。絶対サボらない。だから助かります」
「サボるなんてことは……普通しないでしょう」
「風紀委員、わたくしと剣持さんだけだもんね」
「そうですね」
 次の仕事は、自然科学部からの依頼だった。第一化学室は窓が大きく開放的で、薬品のにおいがするもののどこかロマンチックな雰囲気がある。観察のために飼われているヤモリの水槽に酸素を送る音が淡々と響く。ひっくり返して机に置いておくタイプの木製の椅子に座った自然科学部員が五名いた。
「風紀委員さんですね。さっそく本題なんですが、見て分かる通り、うちは女子が今一人もいないんです」
 部長のBと名乗った男子生徒が声を発した。「月ノ美兎です」「剣持刀也です」と軽く会釈する。
「自然科学部はもともと男女比に偏りのある部活だとお聞きしていたんですけど」
 剣持が言う。
「……それが、最後に残った女子部員が一人、いたんですけど、最近顔見せなくなってしまって」
 副部長のCと名乗った男子生徒が意味ありげな顔をして言う。
「何かあったんでしょうか」
 この空間では紅一点の美兎が追求する。
「SNSのフォロワーとエンカして、付き合うようになったそうですよ、ふん」
 部長のBが露骨に苛立った様子で言い放った。なるほどね。美兎と剣持は話が読めてきた。
「つまり、最後に残った女子部員がどこかの誰かとSNSで知り合って、実際に会うことになり、恋愛関係に発展したためそっちが楽しくなってしまい部活に顔を出さなくなった……と」
 剣持がまとめる。自然科学部の部員達は苛立っている者もいれば、にやけた表情を隠せないでいる者もいる。
「相手誰なんですか?」
 個人的な興味だろうか、美兎が尋ねた。
「弓道部の三組のあいつだよ、生徒会入ってるあいつ」
「SNSのHNは表が名字のもじりで裏が『薄紅@病み垢』アイコンソシャゲのフリー配布のやつ」
「コミュ強気取って生徒会アピール激しいけど体育で一緒の時とか流行りのソシャゲの話しかしたことない」
「成績もゆうてそんなにだもんな。前の模試で文系に数学負けてたらしい」
「クラスの隅で家族ごっこしてるの吐き気するんだけど。あいつが『父ちゃん』で美術部のあの人が『おかん』なんだろ? 子供もいるとか正気かよ」
「あんなやつに惹かれたあの子もあの子だよな。見る目が無いっつうか」
「ここにもさ、研究よりもどうせ男漁りに来てたんだよあの女」
「オタサーの姫ってやつ? それを『ここ』でやろうとするのが間違いって感じだよな。ここは真面目系文化部だっつうの」
「大学で化けるならまだしもこんな平和な高校で覚醒しちゃうとやめらんねえだろうな」
 次々飛び出るとげとげしい言葉に美兎は目がちかちかしてしまった。
「……そうなんですね。大変ですね」
「まあ……あれですよね、こんなこというのもなんですけど」
 表情を変えない剣持が口を開いた。空気が一瞬固まって、氷のように身体の節々の動きを封じた。
「いない人の悪口ばっかのこんな部活、戻ってくるわけないですよね」
 自然科学部の五人は口を開けなくなった。美兎が愛想笑いをして、そのまま空気をそれ以上壊さないようにして教室から出た。
「よく言えますよね。怖くなかったの」
「ああいうのは一発ガツンと言ってやった方がいいと思ったので。本当は女子部員にみんな戻ってきてほしいと思っているはず。だが風通しのいい空間のほうが女子部員も戻って来やすい。だからああした。それだけです」
「戻ってこないかもしれないでしょう」
「それは彼女の新しい門出ということで、祝ってあげるべきことなんじゃないですか」
「ふうん。無理して彼女の方にアプローチして部活に戻って来いってしなかったのはなかなか賢明な判断でしたね」
「今が一番楽しいでしょう、ああいうのって」
「どうしてこうジジイみたいな言葉が出てくるんでしょうね、剣持さんったら」
「十六歳の男子高校生じゃワシは」
「わたくしも十六歳の女子高生でした、そういえば」
「急に何なんですか」
「ふふっ、教えてあげない。さあ、次行きましょう。次は美術部。ここからすぐ下の階です」
「書道選択だから一度も入ったことないんですよね」
 美術部の相談内容は、部の雰囲気を悪くしている人がいてつらい、というものだった。
 そんな人がいるのかとドアを開けてみても、皆いちように絵を描いているだけで特に迷惑をかけている人は見当たらない。「風紀委員です。しばらく観察させてもらいます」と声をかけ、椅子に腰かけて部内の様子を見させてもらうことになった。
 美兎の観察眼では、次のようなことが分かった。
 一、本気でデッサンの練習をしている部員と、手慰みに落書きのような絵を描いている部員がいる。
 二、前者のなかでも、一人だけ特に描くスピードが速い人がいる。
 三、その人は絵ができるたびに他の部員の元へ近づき、何か話をしている。
 このことを剣持に簡単に伝えたのち、美兎はある作戦に出た。
「体験入部させてください!」
 落書きのような絵を描いている部員から画材をこころよく貸してもらい、イーゼルに向かってデッサンをする。描く対象はガラス瓶だ。
 剣持に見守られながらデッサンを続ける。八割ほど完成した辺りで、例の部員が美兎のもとにやってきた。
「こんにちは~! 体験入部の人? 腕章あるから風紀委員? よく分かんないんだけど! てか絵上手いじゃ~ん!」
「……あっどうも。月ノ美兎といいます」
「わたしDって言うの~。どこ中だった?」
「ここからちょっと遠いんですけど、X中です」
「ん~興味ない」
 傍で聞いていた剣持にも、この言葉の辛辣さはよく分かった。額に手を当てた。
「絵、どこかで練習してたことあるの~?」
「一応、画塾みたいなところに通ってたことはありますね」
「にしては線薄いね。わたしも美術予備校通ってるから色々分かるんだ。もっと黒くしないとだめだよ。ねえねえねえ、本当に通ってたの~? お金だまし取られてるんじゃな~い? ちょっとこれはひどいよねえ」
 剣持が椅子から立ち上がった。
「おい――――」
「あはは、そうかもしれませんね。向いてないのかな、わたくせ」
 美兎は作り笑いをした。似合わない顔をしないでほしいと思う剣持だった。
「じゃあこのへんで帰りますね、絵も八割方できたし。入部は考えときます」
 そう言って部室を後にした。
「大丈夫ですか委員長。あれはちょっと……」
「美術部って学校の受け皿みたいな役目があると思うんです。クラスで浮いてしまうような子も、美術部でならのびのび好きな絵を描いていられる。そのゆるい空間の中に、本気で美大目指してる子が一人いたらそりゃあ空気も悪くなりますよ。美術部はもう手に負えないですね。おしまい」
「でも、委員長があんな風に言われてたのはよくないと思います」
「ふふ、そうかもしれませんね。あの人はあのままが一番いいんです。だってもうヘトヘトみたいだから」
「ヘトヘト……?」
「すごく余裕がなさそうで、まるで昔のわたくしを見ているみたいでした」
 最後の仕事先は放送部だった。学校内を一周して元の場所に戻ってきたことになる。重い鉄製の扉を開けると、そこはスタジオのようになっていてガラスで隔てられた向こう側にマイクが並んでいるのが見えた。
「来てくれてありがとうございます。Eです。わあ、本当に来てくれるんだ風紀委員さんって! 卒業文集漁ったかいがあったなあ」
「どうも、月ノ美兎です。ちょっと剣持さん、風紀委員の活動がほとんど知られてないみたいじゃないですか! 委員長はわたくしなんだから、広報は剣持さんでしょ! せめて!」
「剣持刀也です。ああもううるさいなあ。いいじゃないですか、ちゃんと今日だけで四件目ですよ。上出来だと思いますね」
 わちゃわちゃとしながら靴を脱ぎ、奥のマイクが並ぶ部屋に通される。絨毯がひかれているのは消音のためだろう。盾やら賞状やらが壁面に飾られていて、棚にはCDが溢れるほど収納されている。最新型のデスクトップパソコンもある。二人とも入ったことはなかったが、学校にしてはなかなかに豪華な部屋だ。
「紙……読んでくれましたか?」
「ああ、読みましたよ。大会の成績不振でしたっけ」
「そうです。でも、放送部の大会って言っても何のことか分からないと思うので、軽く説明しますね」
 説明は案の定長かったので要約すると、
 一、大会はアナウンス部門、朗読部門、ドラマ部門、ドキュメント部門がある。
 二、特に悩んでいるのはアナウンス部門と朗読部門。
 三、これらの部門は学校によって実力の差が激しく、その原因はちゃんとした指導者が一定の高校に偏っていることにある。元アナウンサーなどの経験を活かした顧問がついていたり、外部コーチを呼んだりしている高校もあるがわが校では十年前にコーチがいなくなってしまったため口伝で練習法を身に着けている。うちの顧問は良くも悪くも放任主義。
 四、居残り練習をしているEは過去に大会でギリギリ賞状がもらえるところまでいくことができた。しかし他の二十名ほどの部員はからきし。
「なかなか大変な状況なんですね」
 剣持は小さくため息をついた。
「はい。しかも、これは予想にすぎないんですが、わたしってたぶん大した実力もないのに賞もらってるんですよ」
「ええ? なんで?」
 美兎がびっくりして言った。
「他の高校は、大会の決勝レベルの人たちが県決勝の枠の数以上います。審査は公開会場なので、分かるんです、実力が。なのに審査員は、強豪校ばかりで決勝の枠を埋めないようにうちの学校みたいな弱小校からも一人、こう、つまむんですよ。いわゆる『調整』ってやつです」
 そんな……と美兎は一瞬言葉を失った。
「そんなことがもし仮にあったら、Eさんは自信がなくなっちゃいますよね」
「はい。もう自信ないです。今度の大会がわたしにとって最後の機会なんです。でももう、どうでもよくなっちゃって。なのに毎日強迫観念にかられて練習をするんです。下校時刻になるまで、ずっと一人で……。もう、つらくて……」
 Eはそう言って泣き出してしまった。背中をさする美兎。「大丈夫ですよ、つらかったでしょう」とEのこころをときほぐす言葉をかけていく。
 涙がようやく治まってきたころ、剣持はスマホを取り出した。
「おいなにやってんだ剣持」
「すみません、ちょっといじりますね……。えっと。あった。この人。名刺貰ってスキャンしてたんでした」
 そう言って画面を向ける。そこには公営放送の元アナウンサーの名前が刻まれていた。
「なんで名刺持ってるんですか……!?」
「ちょっと前に関わりがあって。ちょっとね。この人に講師に来てもらうっていうのはどうでしょう。プロの指導が欲しいんですよね。うちの高校の放送部も、プロの指導があれば、きっと他の学校に負けない実力が、やる気が、ある。僕は話を聞いてそう感じました」
「本物が来るんですか……!?」
「まあ、多少の口利きくらいなら僕やるけど、メールのやり取りとかはEさんがやってくださいよ」
「ありがとうございます! そうか、自分で呼べばよかったんだ」
 そうして元アナウンサーとの連絡が取れる状態までリアルタイムでやり取りを進めていき、もうEが一人でメールを送れるようになった頃、風紀委員は放送室を去った。
「なんで剣持さんがコネ持ってるの」
「何年男子高校生やってると思ってるんですか、公営放送とのコネクションぐらいもってますよ」
 風紀委員の教室に戻ると、相変わらずホコリくさかった。いつの間にか雨はやみ、夕焼けが空を七色に染めている。
「わたくしたちいてもいなくても部活のみなさんはそれぞれやっていくし、意味ないのではと思うことがありますね」
「まあ、意味ないかもしれませんね。でも風紀委員ってこのぐらいの立ち位置がちょうど良くないですか」
「学校を我が物顔で闊歩して」
「ささいなトラブルに首を突っ込む」
「ああ、しばらく高校生のままでいよう」
「ですね」
 腕章を外した。ロッカーにしまう。バスが混んでないといいね。さあ、一緒に帰りましょう。
 Eは二人が去っていったのを確認して、すぐさま静かに鉄の扉を開けて廊下へ出た。廊下を見渡すも、姿は見えない。こんなに早くいなくなった? やはり怪しい。遠くの方へと目を凝らしていたら、後ろでバタンと扉の閉まる音が聞こえた。
 音の方向に目を向けると、倉庫だ。もう使われなくなった小さな部屋を、教材置き場として利用しているらしい。そこの扉の音だろうか。好奇心に任せてドアノブをひねる。開いた。
 中には古い社会科教材が山ほど積まれていた。ホコリくさい。何十年も誰ひとり立ち入ったことのないようなホコリの積もり方をしている。ロッカーがあった。半開きになっているので開けてみると、そこには「風紀委員」の古い腕章があった。ボロボロになって壊れているから使い物にならないだろう。
 気付いてしまった。急いで廊下へ飛び出す。目安箱の置かれていた机には数学の計算用紙に使う用の裏紙が積まれていた。目安箱なんてものは最初から存在していない。
 放送室へ入り、過去の卒業文集を片っ端からもう一度読み漁る。やっぱり。風紀委員の名前が委員会活動報告のコーナーに登場するのは、最近でも十年以上前のことだ。それも、Eが今さっき出会った彼らと同じ「月ノ美兎」「剣持刀也」の名前で載っている。まさか。
 ハッと顔をあげた次の瞬間には、彼らの顔も声も忘れてしまった。


fin.

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