某所。
夜半過ぎから続いているにせ咎人の「行為」は、激しさを増していった。
にせ刀也(またにせガクくんの「良くない夜」が始まった)
にせガク「バナナを卵とじするのが、にせ刀也さんのチヌシンジ、なんだよな?」
にせ刀也「あっ、ダメですよ、にせガクくん……! 僕のチヌシンジ、そんなに擦らないでくださいっ……!」
澄んだ目に雫を浮かべながらにせ刀也が懇願した。
にせガク「へへっ! にせ刀也さんは繊細だな?」
にせガクはブーメランを取り出した。
苦虫を噛み潰したような顔をして、太く短い島バナナを両手に持つにせ刀也。
それ目掛けて、にせガクはお得意のブーメランを放つ。
一見すると危険なだけの行為だが、二人の息はぴったり。
みるみるうちに一口大の大きさにカットされていく。
にせガク「フライパンに油を熱して、バナナを並べて焼き目をつけるんだよな?」
にせ刀也「……っく、用意してるとでもいうんですか」
にせガク「もちろん! そのあとは溶き卵を流し入れような?」
シュッシュッ、とブーメランを投げながら、にせガクは工程を口に出して確認する。
輪切りにされた島バナナが無様に落ちる。
初めのころは息も合わず、よくにせ刀也の手や足に直撃していたというのに、もうこんなに手馴れてきて。
意識する度に、にせ刀也は頬が赤くなるのを抑えられずにいるのだった。
にせガク「島バナナは甘みが強いとされてるんだよな……?」
にせ刀也「も……もう、擦るのはやめてください!!」
ついに、にせ刀也が激昂して、にせガクのほうへ近寄り胸倉を掴んだ。
それは淀んだ色をした薄地の衣服が触れ合うくらいの距離で。
にせガク(あれ……!? にせ刀也さんの顔がこんなに近い……!?)
そこで初めて、にせガクはにせ刀也のあごがケツアゴになっていることに気が付いた。
瞬間、にせ刀也の背中めがけて投げたばかりのブーメランが弧を描き戻ってくる。
鈍い音がした。
にせガク「にせ刀也さん!!!! 大丈夫か!?」
にせ刀也「う……あ、れ? 刺さって、ない?」
なんとブーメランは天文学的な確率で八色の竹刀入れすべてを順番に撫でるように当たっていた。
それぞれの竹刀入れからは、大きな音を立てながらサーターアンダギーが大量に放出される。
にせ刀也「み、見ないでください」
にせガク「これは……俺の作った……!」
サーターアンダギーはにせガクの得意料理だ。
以前プレゼントしたこれらを、にせ刀也は八色の竹刀入れにそれぞれ日付ごとに密閉し、大切にとっておいてくれたのだ。
にせガク「はっ……! にせ刀也さん、こんなに俺を大切に思っていてくれたなんて! ……試すような真似をした俺が悪かった」
にせ刀也「いいんですよ。僕だって意地になっていた部分はあります。それにさっきは大声を出してしまいすみません」
にせ刀也はコンコン、とにせガクの銅板で覆われた頭を小突いた。
にせガク「痛って、このやろっ」
にせ刀也「あはは、僕たち、最高の相方じゃないですか」
にせガク「そうだな! これからもよろしくな! 見てくれ、もうこんなに空が明るくなって……」
もう夏である。
にせ刀也の股間をなでる風もどこか暖かくさわやかだ。
二人は仲直りの証として、朝ごはんに島バナナとサーターアンダギーを食べたのだった。
fin.